平成26年度地域産業振興講座第5回開催概要   

総務企画部企画課

日 時 平成26年8月27日(水)14:00〜15:30
場 所 一般財団法人日本立地センター 会議室
テーマ 日本でいちばん大切にしたい会社
講 師 法政大学大学院政策創造研究科  教授 坂本 光司 氏

 

1.日本でいちばん大切にしたい会社とは

法政大学大学院政策創造研究科 教授 坂本 光司 氏
法政大学大学院政策創造研究科
  教授 坂本 光司 氏

 今、社会では精神的な障害(「うつ」など)を抱えてる患者が100万人以上いると聞いている。これは、企業社会が生んだ病気であると考える。私は、精神科医や弁護士、社会保険労務士の方々と付き合いがある。精神科医には、「企業社会が患者を作っている。その後始末を我々にさせないでほしい。」と、懇願される。弁護士の方々にも、「企業の経営者などが早期にうまく対処していれば、精神疾患に伴う問題などうまく解決するのではないか。」と言われる。

 我々がイメージするいい会社とは、業績が高い会社や、ブランド力がある会社や、成長著しい会社ではない。毎年新製品を出している会社や、納税をきちんと行っているだけの会社がいい会社とは限らない。
 人が一番大切なことは、「命」と「生活」であると私は考える。「技術」でも「お金」でもない。「命」と「生活」より重いものはこの世にないと私は思っている。そして私は「人間の命」と「生活」を守るのが企業経営の最大の使命である。と考える。さらに「人を幸せにする」ことが企業の使命であるということが、我々の行き着いた結論である。
 人を大切にする会社は、必ず業績が良くなる。私は、人を大切にする会社がいい会社であると思っている。倒産した会社は、人をコスト、景気のバッファ、または、人を犬猫のように評価して会社が傾いていく。会社は継続企業なので潰さないことが第一に考えられる。そのため傾き倒産するまで、50〜60年の歳が経っている会社もある。正しいことをしている会社は滅びないことは歴史が証明している事実である。正しいことということは人の命と生活を守ることであり、人の尊厳を守ることである。国や自治体はそのような会社を増やすことの一助になるべきであると、私は考える。

 経営者が大切にすべき人物は、4名いると私は考える。
 最初に経営者が幸せを願わなければならない人物は、社員とその家族である。経営者が一番に幸せを願わなければならず、殆どの時間を注力すべき人物は、お客様でも株主でもない。それは、社員とそれを支えている家族である。私たちが行き着いた結論は、企業経営とは社員とその家族を永遠に幸せにするための活動をいう。会社とは単にその場所に過ぎない。会社は重要ではない。そして、社員とその家族を永遠に幸せにする活動を経営という。社員とその家族が幸せを実感できる組織運営をすることが一番大切なことで一番正しいことである。これを否む経営者がいれば、市場から去るべきであると私は考える。

 2人目に大切にするべき人物は、社外社員とその家族である。社外社員とは協力工場や外注先、仕入れ先などの社員である。外注する仕事は主に、自分ではできない仕事である。具体的には、高品質、短納期、小ロットの品や精密な仕事、また騒音、粉じん、振動がでるような過酷な仕事も外注される。しかし、部品やその工程を担当する誰かがいなければアッセンブル(組立)はできない。
先日大手企業の管理職研修で講演した際、協力工場や外注さん、仕入れ先にスポットを当てた話をした。その際「協力工場や外注先は、材料ではない。社員ではないが社員と同じような評価、位置づけをすべきである。彼らは、社外社員である。」また、「誰かの犠牲の上に成り立つ組織運営は正しくない。喜び、悲しみもすべて分かち合うことが組織である。例えばあなた方が下請企業であった場合、いい加減な扱いをされてもこの会社のために死にもの狂いで頑張ろうと思うか。思う訳はない。」と、話した。中には涙ぐんでおられた幹部社員もいたが、これが真実である。

 3人目に大切にするべき人物は、伝統的経営の中心人物の顧客である。企業経営とは、現在顧客と未来顧客を永遠に幸せにするための活動のことをいう。現在顧客とは、今日、買い物に来てくれた方、あるいは、今日注文してくれた方を指し、一方で今日買い物をしなくても店舗に寄った方々を私は、未来顧客と名付けた。経営者は、お客さんになってよかった。お客さんなりたいという、経営をすべきである。お客様が一番心地いいと感じることを提供することは、経営学の原理原則である。決して会社の都合や売り手の都合を優先させてはならない。会社としてはできれば高いものを数多く買ってもらいたいものである。しかし、お客さんの状況を考えると今回は一番安いものが合うケースや、ライバル企業の商品の方が、幸せになる場面もある。本来であれば、営業失格であるが、私がその状況を見たら一生のお客になりたいと思う。これは、私だけに限った状況ではない。「真の強者は常に弱者の側に立って考える」からである。  

 4人目は地域住民と名付けた。直接的にも間接的にも関係性のない方々である。地域社会レベルで考え、その方々に法人企業としてできる限りのことをして差し上げることをいう。それは、雇用することであると私は考える。世の中には様々な理由で五体不満足の方々いる。その1人が障がい者である。日本では、約720万人の方々が障がい者手帳が交付されていて、手帳交付の申請を拒否された方を含めると1400万人と言われている。日本の人口比で言って6%に該当する方々である。我々が高齢になると、程度の差はあれ障がいと共に暮らさなければならないので、障がいはもはや人ごとではない。その方々に企業としてできることをする。日本には、障がい者雇用促進法があり、従業員50人以上の会社は、基本的に2%以上の障がい者雇用をする決まりがある。先進国としては障がい者雇用をすることや強い立場の人間ではなく社会的に弱い立場の人間の幸せづくりに尽力することは、正しいことである。  

 障がい者雇用について一例。先日、30名の経営者と共に浜松市にある白杖=視覚障がい者が使用する杖を作っている会社に訪問した。現在、白杖で国内の60%のシェアを持っている国内1位の企業である。2位は輸入品が4割である。この会社は、10年前まではシェア100%であった。この会社の従業員はほとんどの方が視覚障がい者で、仕事を覚え白杖を作っている。経営支援を指導している立場であれば、この現状を哀れんで運転資金や低金利の融資制度を紹介するところであるが、この会社は、失った仕事4割のために新たに仕事を作った。点字の名刺や点字の広報誌である。さらに、点字で使用した、使用済み銅版を動物の金型でプレスした後に動物の首に小さなネックレスを付けたマグネットの商品を大手雑貨店に置かせてもらい雇用を守ったという経緯がある。一般的な経営者であれば、雇用を減らすケースが多い。また、それを哀れんで施策を投じる方もいる。しかし、私は人をモノのように消費している会社に助成して何になるのかと感じている。子供に胸を張ってできるような施策や事業運営をするべきでそれが正しい生き方と考えている。

2.100の指標について

 現在、40数年経験してきたノウハウを100の指標にまとめて公開しようと大学院の学生と共に、執筆中である。これは、いい企業について100の指標を使って診断するものである。指標は、それぞれ1点なので100点の自己評価をする。いい会社と言われる企業は、この指標を使って70点以上の会社である。この指標通りの経営をやっていけばいつの日か社会から尊敬・尊重される会社になると思う。この指標はいい会社が行っていることを我々が発見し整理して体系化したもので、数値化・客観化したものである。
 例えば@過去5年間以上、社員数が維持・増加しているがという問いに対し、社員の数が減っている会社は、リストラを行ったか、定年退職後人員を補強していないことになる。また、指標によって社員がこの会社で満足しているか、幸せになれるかどうか、さらには社員の離職率もわかる。いい加減な会社は離職率が高い。一方、立派な会社は、離職率が3%以下で、社員が辞めない。社員を大切にする会社かどうかはこれを見れば分かる。
 ある程度の企業であれば、社員満足度調査のようなものをやらせた方がいい。理想は、月曜日の朝、出社するのが楽しみになる会社である。社員満足度調査を行うのであれば、50項目くらいあれば良い。社員にとっては、この調査の項目の1つでも2つでも解決できれば、経営陣が話を聞いてくれた、認めてくれた、実行してくれたと感じ、社員のモチベーションを上げる最高のオーソライズとなる。
会社は社員のものでも株主のものでもない、社会みんなのものである。例え経営者・創業者が資本金100%出したとしても地域社会の恩を受けている限り、私物化してはいけないと考えている。

3.社員を大切にする会社について

 横浜に従業員が50名ほどの住宅のリフォームを専門にしている会社がある。ある日、この会社の社長から横浜の有名なホテルで株主総会を行うため、講演してほしいと依頼をされた。
 当日、会場には席が200程用意されていた。内訳は、社員が50名、外注先や取引先が50名、この会社のサービスを受けたお客さん100名、全員がこの会社の株主になっている。お客さんの代表株主が挨拶したが、この会社の社員はどんな些細な困りごとでも駆けつけてくれ、場合によっては料金を取らない。とのことだった。この会社を利用した方々はこんな親切にしてくれるのであれば次もこの会社にお願いしようと考える。結果、多くの仕事の発注を受けている。
 さらに、この総会の乾杯挨拶では「どうか、我々の配当を下げてもよいので身を粉にして働いている社員の方々のボーナスや給料を上げてあげてください。」とお客さん代表が挨拶しているのが印象的であった。この社長自身も人間愛に満ちた方で、私はこの会社の社員も協力工場もお客さんも幸せであろうと実感した。

 先日、愛知県の一宮市にあるディサービスに行った。このディサービスという事業形態は高齢者介護施設の中でも最も多いが、職員の定着率が非常に低い。このため、募集をかけてもなかなか職員が入ってこなかったりすることが一般的な業種である。しかし、この施設では通常の人工(にんく)に対して1.3人の人を配置している。つまり本来10人配置のところを13人配置することにしている。
 これにより、職員の残業代は0となるが、利益は5%ほど下がる。しかし、利用率でそれをカバーしている。口コミで広まり、現在一日平均500人がこの施設を利用している。この施設の職員のほとんどは小さな子供を持つ非正規職員である。しかし、施設内に保育師常駐の託児所を設置するなど職員が働きやすい環境を整備している。
 

4.社外社員(外注・仕入れ先・協力工場など)を大切にする会社

 一般的な支払いは、百万円まですべて現金であるが、百万円を超えると手形と現金が半分であったり、すべて手形であったりする。手形の支払サイトは、120日であったり、90日や180日であったりする。手形は、支払サイトの分だけ背伸びした経営をしていることになり、運転資金が欠けていることになる。日本における倒産の定義は不渡り手形を2回以上出し、銀行との取り引きがストップすることを言う。
 先ほどお話しした横浜の会社は、月末締めの20日払いを実践している。さらに年末は20日締め当月末払いとなっている。このような人にやさしい経営が功を奏し、この横浜の会社は社外営業をしなくてもすべて口コミや紹介で仕事が来る。
 この会社の代表はそれまで営業が主とする住宅リフォーム会社に社員として勤めていたが、幾人もの社員が心身ともに倒れていく姿を見て、会社に経営方針に対して進言したが受け入れられず、自身の考えを立証するために会社を立ち上げた方である。

5.高齢者・女性・障がい者を大切にする会社

 会社は、定年を定めず、66歳以上まで働けるチャンスを与えることが正しい。人はなぜ働くか、それは幸せになりたいから働くのである。これを証明する2つの事例を紹介する。
 ある日、中小企業の社長が花の手入れなどを行う仕事の社員募集の公告を出した。面接に女性2人が来て「是非、御社で娘を雇用して欲しい。農業が大好きな娘である。」と懇願された。彼女は見るからに障がい者であった。驚いた社長は、想定していなかったので丁重に親子を断った。しかし、何度も親子は訪れて母親は、頭を地面に擦りつけて嘆願した。最後に母親は、「私も娘と一緒に働らかせて欲しい。その代わり私の給与は不要なので、娘を採用してほしい。」と懇願した。この会社の社長は、これまで、人間は金のために働くものだと思っていたが、考えを改めた。
 もう一つの事例は、東京のある会社で視覚障がいがある女性が働いていた。私が、訪問して「仕事はどうですか?」と、声をかけたところ「仕事は大変だが、今は幸せである。」と、彼女は答えた。障がい者の方々は程度によるが福祉年金が出る。そのため会社で働いても1ヶ月は働いても賃金は二万円弱にしかならない。仕事をしなくても、福祉年金は入る。しかし、あえて働きたいと言う彼女になぜか尋ねた。「この会社で働くまでの私の人生は、健常者の方々に毎日お礼を言い続ける人生であった。お礼を言い続ける人生に幸せを感じたことはなかった。でもこの会社で働くようになってから、毎日毎日健常者の方や障がい者の方にお礼を言われる。お礼を言われることがここまで心揺さぶられることであるとは知らなかった。仕事は大変だが、今は幸せである。」と彼女答えた。
 企業の目的は、社員とその家族を永遠に幸せにすることである。永遠とは、その方が働きたい限りである。
 近々、社会人学生と一緒に東北3県を訪問する予定である。まず最初に向かうのが、岩手県にある小松製菓(岩手屋)である。この会社の定年は80歳である。しかし、この会社の製造ラインの検品作業は65歳以上は不向きである。そこで65歳以上の方が勤められるようにレストラン(四季の里)を作った。このレストランは65歳以上の方や地域社会で働く場所がない障がい者のためへの受け皿としてつくった会社である。我々はこのような温かい会社を高く評価している。
 また、三軒茶屋にアンシエーヌ藍という現在70歳になる店主が60歳半ばから経営するフレンチレストランがある。きっかけは、一人の重度精神障がい者の女性の夢を叶えるためである。彼女の夢は素敵なフランス料理店で働くこと。そのため、週1日のアルバイトでも、皿洗いやトイレ掃除などの仕事でも無報酬でもかまわなかった。店主は様々なレストランに声をかけたり訪問したりしたが誰一人了承してくれる店はなかった。そこで、店主は彼女を雇用するため自分で店を作った。今でもアンシエーヌ藍で、彼女は週に2〜3日働いている。
 働くうちに障がいも大分よくなった。友人の精神科医が話してくれたが、精神障がいと言う病は、病院や薬では治すことができない。治すことのできる唯一の方法は、社会である、働かなければ治すことはできない。と、教えてくれた。

6.人を大切にする経営学会

 今年9月23日に「人を大切にする経営学会」を立ち上げる。今までの経営学会は、業績を高めたり効率を高めたり理論を学ぶことが圧倒的多数である。業績のためには、手段を選ばない。いかに外注さんを低コストでこき使うか、そのためには世界最適購買をするのがよいのではないかと、大学の先生はずっと教えてきた。そして教わった学生が企業に就職し、同じことを繰り返す。これではこの国は永遠によくならない。正しい企業経営学を学び実践している経営者や学生を増やさければこの国は良くならない。と、いう考えの元で学会を立ち上げる。人をたいせつにすることが経営学の大道である。

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