平成26年度地域産業振興講座第2回開催概要   

総務企画部企画課

日 時 平成26年6月11日(水)14:20〜15:50
場 所 電気通信大学 創立80周年記念会館リサージュ3F
テーマ 「台東デザイナーズビレッジとものづくりを核とした地域活性化の方策」
講 師 株式会社ソーシャルデザイン研究所 代表取締役 鈴木 淳氏

 

1.台東デザイナーズビレッジについて

宇都宮商工会議所事務局長 金子 敏氏
台東デザイナーズビレッジ村長兼
株式会社ソーシャルデザイン研究所 
代表取締役 鈴木氏

 (1)台東デザイナービレッジの成立ち
 台東区は、東京23区で一番小さいおよそ10㎢の面積である。その中でも「カチクラ」という地域(御徒町と蔵前という二つの地域から一字ずつ取った名称)は、周囲を上野・浅草など観光地に囲まれていながら、知名度が全くなかった。この地域は、江戸時代から続くものづくりの地であり、現在でも財布・帽子・バック・ジュエリー・アクセサリーというものづくり企業が集積している。
 しかし、この地域でのものづくりは海外にシェアを奪われ、厳しい状況になってきている。
 この地域は、問屋(メーカー)もあり、有名ブランドを作っている会社がたくさんあるにも関わらず、OEM生産(※1)により何を作っているのか公にできない企業が集積しているため、情報発信を行う事ができなかった。そこでデザイナーを誘致して地元企業に仕事を還元し、高付加価値なものづくりをすることが、この地域の産業の活性化に繋がるとの意見が上がった。(※1 発注者のブランドで製品を生産する方法)
 また江戸川区や江東区など周辺の区は人口が増加しているが、台東区は、都心にありながら過疎化している地域であった。そのため平成になり20もの小中学校が統廃合され、廃校舎を有効活用して産業に資することが検討された。
 そこで、平成16年4月に廃校を利用した日本で初めてのものづくり系クリエイターの創業支援施設、台東デザイナーズビレッジがオープンした。
(2)台東デザイナーズビレッジの概要
 台東デザイナーズビレッジの建物は、昭和3年に建てられた現在築80年の当時、日本でも珍しい鉄筋コンクリート製の関東大震災復興校舎である。小学校が廃校となり校舎を活用する際、創業支援施設として産業利用することとなった。この施設の役割は、創業5年以内のファッションと雑貨に特化したクリエイターが3年間入居し、手作り作家から起業し経営者として育つための創業支援を行う施設である。また、この土地は地の利がよく、自転車の行動範囲で、仕事に好都合な材料屋、道具屋、職人が集積している。そのため、入居したクリエイターが3年間仕事をしながら、地元(台東区)に馴染んで定着してもらうという仕組みができている。
 館内は、元理科室を利用した制作室、元保健室だったショールーム等が整備されている。図書室では専門書や色やパーツの見本が閲覧できる。
 入居者のアトリエは60uの当時の教室を40uと20uに分け改装し貸し出している。
 入居者支援メニューでは、村長からのアドバイス、工場見学やマッチング、販売イベントの開催、セミナー開催等多岐に渡る。
 デザイナーズビレッジは今年でオープン10周年となる。これまで、77組のクリエイターが入居し55組のクリエイターが卒業した。現在は、19組のクリエイターが入居している。他の創業支援施設に比べると入居者の年齢が若く、女性が圧倒的に多いのが特徴である。また、同期生同士や先輩後輩など、入居者同士の交流が大変盛んであるのも特徴である。さらに、広報面でのチャンスにも恵まれており、19組のファッションに特化したクリエイターが入居している施設が話題となり、マスコミやバイヤーから多数の取材や問い合わせがある。
 他に、創業支援の一環として、クリエイターと職人との相互交流に力を入れている。一例として、ものづくりの現場を知ることを目的とした関東周辺(例:甲府の宝飾、富士吉田の織物)バスツアーの開催である。クリエイターは、仕事の規模を拡大するために自分の手づくりから工場や職人に依頼して量産へと業務内容が変わる必要がある。そのためには、応援してくれる工場やものづくり企業など産地との連携が必要となる。これまでに、この相互交流により、新たな価値・地域資源が見つかり、新しい商品・ビジネスが数多く生まれている。
 これまで、55組の卒業生の内、28組が台東区内に残り、そのうち18組が店舗を併設している。卒業生が商品・町・職人を発信する事により、地域の埋もれた価値の発掘や、新たな価値の創造が認識され、その話題性から更なるファンを増やしている。
(3)デザイナーズビレッジの立ち上げについて
 デザイナーズビレッジのオープン当時、廃校を利用した安い事務所ができたと公告していた。そのため第一期入居者の2/3が「家賃が安い」だけのイメージで入居しており、倉庫代わりに使用している者や、又貸ししているという者など、成長意欲や他入居者との交流意欲の低い者が多かった。この状況下でインキュベーションマネージャーとして創業支援を行う上での運営方法を、一から模索した。創業支援は、他の一般支援施策に比べると結果が出るまでかなり先となる。一般の支援施策は、その時に今すぐ効果のある事業である事が多い。その点、創業支援というのはまず産地、地域の後継者、地域の会社の卵をふやさなければならない。企業は、大小老いも若きもあり刺激し合い、いろいろな会社があることで地域に元気を与えることから、創業支援が将来的に必要となる。そこで、区が設定した「支援が必要なクリエイターが集まる施設」から「優秀なデザイナーが集まるファッションの登竜門」に目標を再設定した。
 まず、入居者の募集要項を、「自分のブランドを成長させたい方のみ入居してほしい」という、メッセージを変えた。次に、知名度を高めるため、メディアを通じて、優秀なクリエイターが創業するためのインキュベーション施設であることを説明した。
 また、入居予備クリエイターの育成を目的に、ファッション業界人を講師に招きセミナーを毎月開催することで、多くのクリエイターを集めた。そして、来場者にメルマガ登録にて、次々と情報発信していく流れを作った。これにより、自分のビジネスを伸ばしていくクリエイター、入居予備クリエイターを数年かけて増やしていった。さらに入居希望者の事前面接に時間をかけることにより成長意欲が高いクリエイターを見いだすよう心がけた。これらを行うことにより、入居するクリエイターの意識と雰囲気を変えることができた。
(4)ブランドづくりとは
 デザイナーズビレッジでは、ブランド作りとは商品を売ることではなく、ファンを育てることと教えている。多くのお客様により高い価格で何度も購入いただくには、ブランドを好きになってもらうことが必要である。作り手側のビジネス活動(人・商品・プロモーションなど)を見ているお客様の頭の中に作り手の人柄、信頼感、ストーリーや好みなどいいイメージができることをブランド化という。
 クールジャパンでは、いろいろなコンテンツを配信することで、世界中の人の頭の中に日本のいいイメージを与えていることを狙っている。モノ以外の情報で総合的に付加価値をつけブランド化するのである。これを伸ばすことが、クールジャパンでいう日本が狙ってゆくべき所ではないかと考える。


          Knit−Shock
水にも衝撃にも弱いというキャッチフレーズで販売。デザイナーズビレッジで商品開発を学びセレクトショップでヒット商品となった
          蝶のブローチ
インクジェットプリンターで印刷し制作。起業3年目でラフォーレ原宿に出店。現在2店舗。東京ギフトショー「マニコレ」展示会の主催者

2.モノマチについて

モノマチの様子
モノマチの様子

(1)モノマチの開催
 デザイナーズビレッジでは、施設公開を年に一回開催しており、クリエイターのアトリエを見学をしながら、仕事の説明を聞き、商品を購入できる事が地元の方々に好評であった。そこで平成23年、ものづくりのファンをさらに増やすことを目的に、デザビレ卒業生や区内ものづくり企業に声をかけ、ものづくりによるまちづくりのイベントである「モノマチ」の企画をスタートさせた。
 モノマチの開催には、地元の方を実行委員長として(自身は黒子となり)区に事業を提案した。しかし、開催まで間もない時期に東日本大震災が起き、全国各地でイベントの自粛が相次いだ。モノマチ開催メンバーからも開催中止を求める声があった。一方ですでに翌年、スカイツリーの開業が決定しており、開業までにモノマチを開催しカチクラ地域の知名度を上げ、メディアの取材リストに入っておく必要があった。イベントは自粛のムードではあったが、カチクラの知名度を浸透させるため第一回モノマチを、開催した。参加企業はものづくり系企業が16社、クリエイターが87組であった。デザイナーズビレッジの施設公開には3000人が来場し、会場となった地域の商店街には人が溢れた。さらに半年後の11月に第2回モノマチを開催し、1回目の成功を期に仲間となった方々が近所の企業に声をかけ、ものづくり企業62社が集まった。第2回モノマチは金土に開催、土曜日は集中豪雨であったにもかかわらず、会場となった商店街のアーケードとデザイナーズビレッジを拠点にお客さんが集中し、1回目以上の来場者となった。また、ウォークラリーでは、ものづくり職人の職場見学を通してものづくりの現場を伝えることで来場者の商品に対する価値意識が変化したり、職人の労働意欲も変わったとの事例もあった。
 第3回モノマチでは、地図の中央にデザイナーズビレッジが位置し、御徒町と蔵前の3カ所をイベント会場の拠点にして開催した。第3回の参加企業は120社まで増え、今回は、商店街や地元高校が名乗りをあげ来場者を盛り上げた。ものづくり職人の職場見学とワークショップを、自ら見学し体感することにより、ものづくりの町を来場者がより深く理解するきっかけとなった。3日間を通じ天候にも恵まれ、イベントを通じて町に注目が集まり大成功のうちに幕を閉じた。また、今回モノマチを開催する事により、町を好きな人を増やすこと、来場者に町中の企業を見てもらう事という当初の目的を達成した。
 さらに第4回のモノマチでは、モノづくり企業は247社まで増え、ものつくり企業やクリエイターがオリジナルのプログラムを考えて来場者を盛り上げ、配布している地図がなくなる程盛況となった。初回から、2キロ四方の町中で参加したものづくり企業には、モノマチいうイベントを通じてカチクラというモノづくりの町の魅力を伝えてほしいこと、さらに、安売りの町にはしてほしくないことと、いうメッセージを伝え続けている。これにより、徐々に来場者の意識や雰囲気も変わってきた。
 そしてモノマチ終了後には、毎回参加者全員で打ち上げを行う。町中の人、クリエイター、ボランティアなどがモノマチというイベントを通じて地域を盛り上げることにより町の一体感やものづくり企業への関心が高まるという効果を得た。モノマチの開催をきっかけに地元企業が主役となり活動する場ができ、地域のネットワークが構築される。これにより、地域の人たち交流や新たな連携が増えた。さらに、モノマチの参加者が増えることにより、台東区への出店者が年々多くなり、地域に活気が出てきた。
 モノマチ開催による来場者の延べ人数は、第1回目では1万人、第2回目では1万5千人、第3回目では6万人、第4回目は、おおよそ10万人を超える方々が来場した。また第4回モノマチでは、デザイナーズビレッジの施設公開に、3日間で約1万人が来場した。
 新規イベントを開催するには、とにかく一回目(初回)の開催を成功させる事が重要である。モノマチでは、一回目からとにかく集客に注力した。そして、行政との仲介役や集客集金等はすべて自ら行った。さらに来場者には、地元のモノづくり企業の職場見学を通じて、魅力のある職人や地域の価値、人の価値、土地の価値を知ってもらうことが重要である。
 モノマチは、今年2月よりモノマチ協会と名称を改め、地元の事業者が、運営スタッフや委員長を決め運営する組織となった。
(2)モノマチの課題
  これまで、モノづくり地域が主体となって町おこしをしたいと声があがった場合において、支援するしくみが構築されていなかった。
 行政の支援には環境や商店街、地域おこしなどのメニューはあるが、製造業や問屋(メーカー)などが主体となってまちづくりを行う場合の助成制度はほぼない。
 モノマチの開催により、地域や商店街の活性化については、他からタレントやイベントを呼んでくるのではなく、地域の人や企業が主役になって盛り上るイベントなどを行い集客し、その後の交流につながる仕組みを作りが重要であることがわかった。
 モノマチは、年々開催規模が大きくなることによりボランティアの人数や労働力が限界を超えてきていた。そこで今年度から、ものづくり企業の参加者の数を減らし、負担を減らすようにした。年間を通じて町おこしに協力できる企業だけが協会に入会し、イベントを行えるよう仕組みを変えた。モノマチというイベントではなく町おこしへの協力がメインではあるが、まだまだ、イベントが先行して町おこしまで着手出来ていない状況である。現在、ものづくりのまちづくりに対するノウハウやネットワークに対する知識や仕組みが欠如しており苦労している状況ではあるが、運営ノウハウは今後、自分たちで積み重ねて蓄積していくものであると考えている。

3.今後の展開

  ニューヨークのSOHO地区は、昔、繊維産業が盛んな地域であったが、1950年代繊維産業が下火となり空き倉庫が多くなった。空き倉庫にアーティストが住み、描いた絵を1階ギャラリーで販売したところ、絵を求めるお客さんが集まり、ニューヨークのSOHO地区は世界的な商業地区となった。台東区も、SOHOと同様にクリエイターという異分子が入り込むことによって、地域の魅力や価値をどんどん発信するようになった。現在、ニューヨーク・ミラノ・パリ・フィレンッエは世界中からファッションを求めてお客さんが集まっている地域である。世界中でその地域で作られたものが求められ、クリエーションを発信する事で地域性を高めているお手本がニューヨーク・ミラノ・パリ・フィレンッエであり、将来、台東区カチクラ地域が目指してゆくべき方向性である。
 2020年オリンピックで世界中の人が来日した暁には、ものづくり地域の、クリエイターと職人の仕事を見学し交流することにより、クールジャパンというインバウンドで価値を感じて購入してもらうことを実施したい。クリエイターが発信した地域のブランド化により、ファンを作りさらにものづくり企業の現場公開することにより地域の魅力を発見・発信し、海外の購入者に向け日本から販売してゆきたいと考えている。
 台東区カチクラという地域はものづくりという地域資源があった。しかし、地域資源は各地域ごとに異なる。そこにクリエイターという「価値を見つけ発信する人」が入り込むことによって、コンテンツ産業(クールジャパン)もファッションも食も、新たな価値を作り上げ、さまざまな相乗効果が生まれてくることを今後とも期待している。

 

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